20代でバリバリキャリアを築いても必要になるかもしれないセーフティーネット

 土井英司著『20代で人生の年収の9割が決まる』とNHK取材班『無縁社会』を読みながら考えたことによって、努力していても将来の不確実性をコントロールできないのではという考えに至った。ならば、復帰のしやすい社会の方が生きやすいのではないかと。

20代の働きが今後の人生を決めるのか?

 『20代で人生の年収は9割決まる』の概要は、20代の最初の3年間は丁稚奉公と決めて、25歳までに自分特有の強みを見出し、31歳までに業界ホームランを打つことで、認められ自分の好きな仕事ができたり、転職したりというキャリア形成の指南書だ。
 何が結果として出るのかわかりにくいパフォーマンスの方が周りから期待されるなど、能力を高め方のポイントが色々書かれている。
 しかし、確かに社内で独特のポジションとして認められる人間になれば、リストラの対象にもなりにくいが、そうなれる人間は限られている。
 

想定外のきっかけで踏み外す

 『無縁社会』の中に、企業に自分の手ではどうしようもない外部環境の変化がきっかけとなって、出世街道からひきこもりに転落したという事例があった。大手運送会社に入社し27歳にして営業所長になるも、景気悪化の際に降格人事に遭い、なれない仕事で部下やパートにまで叱責され、心身に堪え退職した。その後、明るいうちもふとんにくるまる日々が続いた。
 10代〜20代を支援を優先する「地域若者サポートステーション」はあっても、30代を超えた人をケアする施設はどこにでもあるわけではない。社会復帰のチャンスは手に入れにくい。
 
 また別の例では、順風満タンなキャリアに見えても不幸せな結果になった例も示されている。三菱系の都市銀行に入行するも、在職中に家庭を顧みず働いた結果、過労で倒れうつ病と診断された。そのせいで子会社の事務職つまり閑職につき会社人生を閉じた。退職後は、家庭をほっといたせいで妻と子どもは出て行ったのでひとり。家を売り、老人ホームに入居している。
 仕事が自分の手のうちに収まるようにコントロールすることは、誰にでもできるものではないのだろう。たいてい会社のいいなりになっていってしまう。だからこそ、『20代で人生の収入は9割決まる』で示されたコツは、自分の歩みたいキャリアを歩む上で、ヒントになるのだが。


こんな時代だからセーフティーネット

 日本産業カウンセラー協会によれば85%の人が仕事に悩みやストレスを感じているという(『無縁社会』)。すべての人が仕事を楽しめる職場につけるわけではない。仕事を自分のものとしてコントロールし、社内でのポジションを築けるのはエース中のエースだけかもしれない。仕事は本来辛いものである。
 今後、上記のような雇用とこころの問題が顕在化していけば、セーフティネットとしての職業訓練センターや精神ケアセンターの必要性が高まってくるかもしれない。そこで働くということが、同じ経験をした彼らの社会復帰にもつながる可能性も残されている。